2015年09月16日

「昭和ミステリ秘宝 二十世紀鉄仮面(扶桑社文庫)」届く

 『法水麟太郎 完全版』作成のために購入した「昭和ミステリ秘宝 二十世紀鉄仮面 (扶桑社文庫)」が届きました。註文したら翌日には発送されていたので、思ったより早く届きました。これで「二十世紀鉄仮面」と「国なき人々」のテキストの書き起こし作業に入れそうです。


 扶桑社文庫の「昭和ミステリ秘宝」は「二十世紀鉄仮面」と「失楽園殺人事件」の二つがあります。しかし法水麟太郎シリーズでもっとも代表作である「黒死館殺人事件」は扶桑社文庫になっていません。この二冊で「黒死館殺人事件」以外の法水麟太郎シリーズは網羅できますが、これでは画竜点睛を欠くといわれても仕方がないかも。それとも読者は「黒死館殺人事件」は持っているという前提に文庫の企画を行ったのでしょうか。「黒死館殺人事件」は文庫化するのが大変だったのかもしれません。

20150916-1.JPG

 長編「二十世紀鉄仮面」は文庫版で約250ページあります。これをテキストに起こすのはけっこうたいへんそうです。それを考えると憂鬱になりそうなので、先に「国なき人々」のテキスト化をすることにしました。こちらは35ページくらいです。最初のページをスキャンしたものが下のものです。

20150916-02Scan1.jpg

 それで書き起こしたテキストが次のものです。最初の見開きだけです。フラットベットのUSBスキャナとAcrobatだけですが、AcrobatでもけっこうOCRの精度は悪くありません。

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国なき人々

     一、二等駆逐艦グローリオソ号

 六月十一日(金曜日)日没午後六時五十六分。
 ポルトガル本船の位置は、西経九度七分、北緯四十一度六分、葡萄牙《ポルトガル》の北端、ヴィアナ・ド・カステロの北西日<00BD>西三四|浬《かいり》の海上。
 風位─西、北西微北、北北東、北北西、北。終始|和風《なごかぜ》にして快晴なり。
 
 風が北にかわって、「海の別嬪さん《シー・ベル》」号は満帆《まんぱん》に追風をうけた。しかしまだ、海には荒天の名残りがとどまっている。たかい蜒《うね》りが、絶えず白い鬣《たてがみ》をふりたて「海の別嬪さん《シー・ベル》」号を追いかけていた。一つの波が追い越すと、その返しが、斜檣《やりだし》に切られてひゅうと潮煙《しおけむり》をあげる。しかし「海の別嬪さん《シー・ベル》」号は、いつも真直に立ちあがっては波浪の底から現われてくるのだった。そしていま、針路をジブラルタルにとって葡萄牙《ポルトガル》沖を南行している。
 この「海の別嬪さん《シー・ベル》」号は、日本でただ一つともいう航洋用|快走艇《ヨット》であった。七百|噸《トン》ばかりで、ディーゼル装置もあり、小粋な、縦帆を展じた姿は<9DD7>《かもめ》を思わせるのだった。それが、快走艇《ヨット》の陛下といわれる英帝|戴冠《たいかん》式に、日本の快走艇《ヨット》倶楽部《クラブ》を代表し祝祭ページェントに参加したのである。その帰路──荒天を乗っ切って、ヴァレンシア沖を過ぎ、いまはリマ河口の残陽のなかに、毬毛《まりげ》のような帆をうかべている。
「止むを得ないさ。だから、僕のいわないこっちゃないんだ。これまでも、なんどその事には、口を酸っぱくしたかア分らん。それだのに、君は僕のいうのを、一度もきくじゃないんだから……。それでねえ小牧《こまき》君、近頃僕は君という男がつくづく分らなくなってきたんだ。考えてみ給え。君は、僕のいうのをてんで聴くでもない癖に、きまって、愚痴をこぼしたいとなるとお関いなしに引っぱりだす……」
 船尾《とも》の手摺《てすり》につかまって、泡だつ船脚をながめている、二人の男があった。いずれも、快走艇《ヨット》着《ぎ》をきて、ひとりは、三十四五がらみの憂鬱《ゆううつ》そうな顔の男である。色の蒼白い……しかし、眼鼻だちの整った貴族的な風貌の、一見して、これが船主の小牧|重吉《じゅうきち》であると分るのだ。それからもう一人は、おなじ倶楽部員で、前年度|競帆《レガッタ》の覇者、法水麟太郎《のりみずりんたろう》であった。
「だが法水君」小牧は、やや重たげに力なさそうに言った。
「僕は、妻を愛している。君も知ってのとおり、尊敬さえもしている」
「分ってるよ。それは、もうさんざん聴き飽きたくらいだ。だから、君は到底出来ないって、いうんだね」
「そうだ」
「だが、考えてみ給え。僕は、最後の忠言をしよう。君は、奥さんの品行を気遣って貞操まで

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 ルビは青空文庫仕様になっています。また

ヴィアナ・ド・カステロの北西日<00BD>西三四|浬《かいり》の海上。

の「<00BD>」はユニコードです。シフトJISでInDesignに取り込んでからepubに書き出すので、シフトJISにない文字はユニコードで記述します。こんな感じでテキストを作成していきます。InDesignで指定する段落スタイルや文字スタイルも可能なものは、直接InDesignタグで段落スタイル名や文字スタイル名を入力します。

 「二十世紀鉄仮面」はこんな見開きを125枚分スキャンしOCRテキストを生成して書き起こす必要があります。ちょっとずつするしかありませんね。もっとも「黒死館殺人事件」のレイアウトには手こずっていて、こちらの作業もまた途中ですけどね。縦組なのに、部分的に横組のテキストを挿入してしかもアンダーラインを引くなんて尋常じゃないですね。


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posted by じん at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 小栗虫太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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